カール・ルイスとオール巨人
北京オリンピックが始まった。
オリンピックとはお灸のようなもので、はじめは「んなもん、オリンピックって」などと言いながらもじんわり効いてくる。大抵、オリンピック終盤頃は結構テレビに見入ってしまう。
まだ熱意が足りていないのかもしれないけれど、スーパースターがあまりいないオリンピックだなあと、テレビを見ながら感じた。
僕の少年時代のヒーローと言えば、手塚治虫や江夏豊や川藤幸三や高倉健や藤子不二雄や赤塚不二夫や忌野清志郎や桂枝雀や伊丹十三や山田洋次など、脈略あるような無いような人たちだった。
アスリートではカール・ルイスが好きだった。ランナーというより、空中を歩くように飛ぶ跳躍にやられた。映像を見て「どないなってるねん」とつぶやいた記憶がある。
大阪で行われた世界陸上の時にカール・ルイスが来日し、その時にインタビューをした。
カール・ルイスは新聞片手に部屋に入って来てくるなり、僕に「オール巨人って知っている?」と尋ねた。
「もちろん。すっげーおもしろいですよね」と答えると、「あいつ、めっちゃええ奴やねん。帽子もらってん」と白いハンチング帽を見せてくれた。
「プレゼント交換してん」。カール・ルイスはオール巨人にもらった白い帽子がお気に入りの様子だった。
インタビューは僕にひとり、カール・ルイスにひとりの通訳がついた。話すとすぐに伝わっているし、カール・ルイスが話すのもほぼ同時に翻訳された。後で理由を聞いたのだけど、現役時代に通訳の問題でたくさんの誤解が生まれ、間違った報道をたくさん書かれたのだそうだ。だから、完全に自分の言論をコントロール(間違えないように)するために、このスタイルを取っているのだという。
ちなみに、日本語で書かれた原稿はスタッフによって英訳され、カール・ルイスがチェックした。僕の印象ではすべてを冷静に見つめるビジネスマンのような人だった。
インタビュー時間は1時間以上あり、すべてをていねいに答えてくれた。
僕があなたはランナーと言うより、幅跳びの選手として注目していたと言うと、「おれも、ジャンプの方がすきやねん」と、すごく喜んでいた。
世界記録の話になったときの言葉が印象的だった。
「みんな、オリンピックで世界記録を出して、金メダル取れって期待するやろ?オリンピックの目標は一番になることや。 世界記録とか関係ないねん。ああいうのは通常の競技会で環境とメンタルが整ったときに出るねん。世界記録を出すためにオリンピックにでるんとちがう。金メダルを取るためにでるねん」
写真撮影の時に「ちょっと、このシャツに着替えるわ」と言って、部屋の隅っこで服を着替えはじめた。現役を退いても体は鍛え上げられ、ボディケアも受けているのだろう。一切の贅肉が無いように思えた。たしか、右腕の所に永遠を意味するのだろうか、∞のタトゥーが彫られていた。
「ほな、写真撮ろか」
やっぱり、頭にはオール巨人からもらったハンチングをかぶっていた。

Comments